映画「貸間あり」(1959)の感想。川島雄三監督、井伏鱒二原作。

井伏鱒二原作、川島雄三監督のコメディタッチの群像劇。

大阪の下宿長屋に、淡路千景演じる新進の女性陶芸家が入居する。そこは雑多な人々が暮らす庶民の長屋。面倒見のよいフランキー堺演じる街の知識人がいたり、胡散臭い商売をする夫婦がいたりと、バラエティに富む面々が顔を揃えていた。彼らの日々の生活に様々な騒動が巻き起こる。

かなりドタバタ劇風に仕上げているが、ただの喜劇ではなく、庶民生活がうまく描写されている作品だ。長屋生活に当時の貧しい暮らし再現されている点も興味深いが、それ以上に登場人物たちのの造形そのものが面白い。

彼らは貧しいが、肩を寄せ合ってひっそりと生活しているわけではない。何かチャンスがあればという山師的な感覚を持ち合わせている。大ばくちを打つのではないが、普段の生活で目を光らせる動物的本能ようなものだ。安定した生活に慣れてしまうと、こういう人たちが持つ庶民の活力が新鮮に見える。