
伝説の将棋の真剣師小池重明の物語。
とにかく面白い。ぐいぐい引き込まれるようなストーリーだ。著者の筆力のせいもあるだろうが、主役のキャラが突出している。脚色されていることを考えても、すごい人物だ。
将棋は鬼のように強く、新宿の「殺し屋」というニックネームで呼ばれている。しかし、肩をいからして、暴力沙汰を起こしたり、違法賭博界を牛耳るような勝負師タイプではない。それとは正反対の弱い性格と、それゆえのクズ人間っぷりがはなはだしい。恩人たちの金を持ち逃げして人妻と駆け落ちする。それを何度も繰りかえす。しばらくするとわびを入れて改心すると思いきや、またも逃走。どうしようもないね。葬儀屋やトラックの運転手として真面目に働いたりする面も同時に持ち合わせていて、根っからのぐーたらではなく、性格の弱さに負けてしまうタイプのようだ。
当時の森雞二八段を平手戦でも差しこんでしまうが、局後に森先生には悪いことをしたなどと言うあたり、弱気の面を常に持ち合わせていることがわかる。そんなことでよく勝てるなと思うが、なぜか強い。二日酔いでも勝ってしまうというのは脚色されたヒーロー像で、本当はイチローや大谷翔平のようにストイックな毎日があると思いがち。それを覆してくれるのが小池重明だ。
システマチックな訓練を受けず、道場通いと賭け将棋のみでプロからも一目置かれる実力者になったというには、やはり天賦の才能があったからだろう。それでも天才という名はふさわしくない人間味のある姿には人を引きつける魅力がある。若くして亡くなったのは残念だが、彼を知る人たちからこれからも伝説が生み出され続けるだろう。

