映画「悪い奴ほどよく眠る」(1960)の感想。黒澤明監督作品。

黒澤明監督作品。汚職事件にからむ復讐劇。

土地開発公団が建設会社からキックバックを受けるという典型的な汚職事件。自殺に追い込まれた公団職員の遺児による復讐劇だ。事件の真相を暴いていくストーリーではなく、悪い奴はどこまで行っても悪い奴だという悪の生態が描かれる。隠蔽のためなら次々に部下を切り捨てていく醜い保身術。家庭では善い父親であったり、小役人であったりする普通の人たちだが、悪人となったときの非情さは筋金入りだ。

一方、復讐する側の三船敏郎はノーマルな人物。恨みはあるが狂信的でアクの強い人ではない。踏み台に使った妻の身を案じてしまうような人間性を捨てられず、復讐の鬼になりきれない。

悪に徹する副総裁と、復讐でありながら良心を捨てきれない娘婿の対比。世の中の悪はこういう構図のもとで成り立っているのだというむなしい気持ちにさせられる。クライマックスの謀殺は秀逸。さすがにうまいつくりだ。

「天国と地獄」と比べると、ハラハラ感が少し薄いかな。悪の全貌を暴いていくというストーリーではないことと、復讐のゴールが見えないためだ。それでも秀作には間違いない。