高木彬光著「一、二、三――死」の感想。

墨野隴人シリーズの第2弾。資産家老婆の遺産をめぐる親族たちの争いを題材にした本格推理もの。

ある日、一人暮らしの資産家老婆のもとにドイツ語で書かれた不吉な手紙が届く。不安になった老婆は、墨野隴人の知り合いである村田和子のもとを訪れ、「莫大な財産を狙う3人の男が自分の命を狙っている」と打ち明ける。単なる脅迫状かと思われた矢先、実際に殺人事件が発生し、和子が案内役となって事件に関わっていくことになる。

肝心の墨野隴人は仕事が忙しいという理由でなかなか登場せず、序盤から中盤にかけては和子が独自に動き回って謎に迫っていく構成になっている。皮肉を言えば、名探偵がなぜこうも姿を見せないのかということ自体が、ちょっとしたミステリーに思えてくるほどである。とはいえ、限られた親族の人間関係の中に怪しげな人物を配置していく手際は、さすが著者らしい手堅さを感じさせる。財産を狙う者、狙われる者、それぞれの思惑が絡み合い、誰が犯人でもおかしくないという疑心暗鬼の空気がうまく作られている。

そして事件の背後には、犯人を暗示するかのような数え歌が見え隠れする。推理小説ではおなじみの趣向ではあるが、これが連続殺人の見立てとして機能し、次に誰が狙われるのかというサスペンスを盛り上げてくれる。

謎解きから真犯人にたどり着くまでの過程は、なかなか楽しめる出来になっている。複雑すぎず、かといって単純でもない、謎の作り込みの塩梅がちょうどよい。全体としてはよくできた一冊だと思う。ただ、神津恭介との違いがどこにあるのかは、この作品を読んだだけではいまひとつつかみきれなかった。