
「このミステリーがすごい!」をはじめとするランキングで高評価を得ている作品ということで手に取ってみた。
中世の老修道士が若い頃の体験を回顧したスタイルで書かれている。彼が北イタリアの修道院に滞在中に起きた連続殺人事件が軸になる。ミステリーではあるが、それは骨格にすぎず、肉づけの部分がすごい。中世、異端、暗号、写本、アリストテレース、博物誌、記号学など、様々な分野にわたる物語だ。
教皇と皇帝の対立するという時代背景がある。異端審問の嵐が吹き荒れ、舞台の修道院もそのための一行を迎えることになる。問答は結論ありきのもの。どうやっても異端から火あぶりの刑が待っているだけだ。
殺人事件の謎解きはごく普通に終わる。最後に文書館に保管されている虎の子の一冊の正体が明らかになる。こちらの方がミステリーの答えとしてはふさわしい。宗教界のドス黒さをさんざん見せられた後に、とどめを刺すような秘密が開示される。宗教であっても権力の本質はこういうものかと思わせてくれる。
要約でストーリーのあらかたがわかってしまうような作品ではない。とにかく読んでみないと始まらない。もちろん理解するのは至難だが、読んでいるだけで中世にタイムスリップしたような気分になることは確かな重厚な作品だ。

