原作は夏目漱石の前期三部作の第二作「それから」。森田芳光監督、松田優作主演。
夏目漱石の心理的世界を映画化するのは難しいと思う。それを見事に映像化しているのがこの作品。一見、何事もないような日常とその裏に隠れる様々な心理的なやり取り。ちょっとしたさざ波の裏には実は大きな心の動きがある。映像もいいし、俳優の演技もいい。
松田優作は漱石作品によく出てくる高等遊民をうまく演じている。茫洋としているように見えて、実は内面には葛藤が荒れ狂う。抑制された演技がうまくハマっている。
友人を演じる小林薫の演技もいい。エネルギッシュな振る舞いが、主人公との対比で際立っている。全身が実業界という感じで、漱石の目から見た実社会が投影されているようだ。
二人きりでの会話のシーンが多いが、そこがこの作品の見どころになる。表面から伝わる内面のやり取りが、うまく画面に表現されている。
森田監督には、こういう撮り方で漱石作品をもっと撮ってもらいたかった。とくに「こころ」が観たいね。残念。