著者の直木賞受賞作。時代劇、推理劇、心理劇の3つを組み合わせたストーリー。
舞台は、荒木村重が織田信長に反旗を翻し籠城した有岡城。使者として来た織田方の使者黒田官兵衛が幽閉されている。毛利の援軍を待ち望むがその可能性は低く、士気を高めるべく方策をめぐらす苦悩の様子が描写されている。
推理劇は、城内で次々に起きる殺人事件がオムニバス形式で描かれている。どれも小粒の事件だが、探偵村重が理論的に導き出そうとする犯人の推理の過程は楽しめる。
3つ目の心理劇はこの小説の肝になる。全編にわたって村重の心の揺れ動く様子とともにストーリーは進む。裏切りは戦国の世の常であり常に臣下の武将たちの真意をはかり、犯人を罰するにも周到な見通しが必要。そこに村重のリーダーとしての責任と苦悩が垣間見える。
そして何よりも黒田官兵衛との問答は読み応えがある。策士の頭脳に一目おく村重は、抱える問題の答えを求め牢に通う。官兵衛は期待どおりに、まるで村重の心の内はのぞいているかのような深い洞察のもとに回答はを示す。そしてついには、村重をも思いのままに動かそうとする高等テクニックまで披露する。まさに二人の心理戦だ。
このやりとりによって、城主村重は実は官兵衛のように身動きがとれない状態であることが浮き彫りになる。敵方に囲まれ外へ出ることはできず、援軍は当てにできず先の見通しがたたない。そして城主という立場から振る舞う態度も制限されている。言葉巧みに牢番を動かした官兵衛の方が自由があり、本当は村重自身が黒牢城につながれているのではないのかと。
官兵衛対村重の対話は、極上の心理ミステリーと言えるくらいに面白い。おすすめ。

