佐藤優著「プーチンの野望」の感想。

ロシアはなぜウクライナに侵攻したのかという問いに、ロシアの専門家である著者が知見をまとめた本。

現在のような状況になっては、ロシア側の事情をどんなに説明しても、世間は耳を貸さなくなっている。それでも、ロシアについて知るのは大事だという著者の主張はもっともだと思う。

外交官として北方領土交渉に携わった経験が披露されている。個人との信頼構築が不可欠というのがその本質。どんな交渉でも人間どうしの信頼関係は必要だと思うが、民主主義国家であれば、人が変わってもそれなりの継続性は期待できるだろう。だが、ロシアの場合、個人関係にたよる傾向が強い。小泉政権時代には日露関係は低迷したし、安部政権後に発展がなかったのは、そのよい例だ。

結局、エリツィンとどうつきあうか、プーチンとどうつきあうかというところを核にして、時代に応じた交渉戦略を立てる必要があるということだろう。

とにかくロシアは面倒な相手だが、対中国や対アラブ諸国についも同じことが言える思う。民主主義の常識が通用しない国が、世界には多いというのも現実だ。

ウクライナ側については、ゼレンスキー大統領は、戦時下では英雄的な活躍を見せているが、それに至るまでの外交で虎の尾を踏んでしまったというのは間違いないだろう。

筆者は外務省を離れて長くなるが、今でも生粋の外交官であるという印象を受ける。交渉によってどうやって問題を解決するかというのが外交の基本だし、そのための知見がつまった本だと思う。