大川慎太郎著「証言 羽生世代」書評感想

将棋界で圧倒的な実績を残した羽生世代について、16人の棋士へのインタビュー。同時代に羽生と戦った棋士達が、羽生世代の強さと羽生将棋について語っている。

羽生世代に棋界の中心を奪われるかたちになった、谷川をはじめとする55年組の苦悩が生々しい。

森内、佐藤をはじめとする羽生世代が、羽生将棋をどう見ていたかが興味深い。あれほどの圧倒的な第一人者がいるときに、どういった思考で将棋に向かっていたのかが語られている。羽生打倒という闘志あふれる面ではなく、人間味あふれる本音に近いところが引き出されている。

谷川の羽生将棋の見方、羽生という壁に当たった森下と先崎、藤井システムの舞台裏、渡辺の冷静さなど。読みごたえたっぷりのインタビューだ。

次世代の、佐藤天も登場しているが、羽生世代の全盛期に当たっていないせいか、印象が薄い。世代が違うというのは、こういうことかと改めて思わされる。

最後に登場する羽生は、いつものようにニュートラルで客観的な分析に終始している。

羽生世代は50代になっており、本音のところを話しているようにみえる。将棋界の歴史の中で、羽生世代の棋士たちが何を考えて戦っていたのかを知るための貴重な証言集だ。将棋ファンでなくとも、おすすめの本。