映画「東京オリンピック」市川崑監督。昭和30年代の記録。

この作品は何度も観ているが、それでもまた見てしまった。

当時、芸術か記録かで論争になった映画で、かなり冒険的なつくりの色合いが濃い。日本が16個も金メダルを取ったとかは、ほとんど重視されていない。

それでも有名選手たちが多数登場する。アベベ、ヘイズ、チャスラフスカ、へーシンク、フレイジャー、女子バレー日本チームなど。優勝者を記録するというよりも、強者の美しさを表現するためかのように。

この映画を見るたびに1964年は遠ざかっていくので、競技の記録よりも、当時の世相の記録として興味を感じるようになっていく。バスや車、街並み、人々の服装と、そこに渦巻くオリンピックへの熱狂。昭和30年代の雰囲気と空気がそのまま取り込まれている。

巧みな構成も見逃せない。聖火の採火式から開会式、それにメイン競技の陸上で、半分近くの時間をとったことで、大会の華やかさが際立つ。庶民の何気ないしぐさや、選手のユーモラスな動きをところどころに入れて、勝負の緊張感から一気に安心感を抱かせる。王、長嶋の両選手の顔も見える。

世紀の祭典を際立たせる巧みな演出と観客を飽きさせない構成。オリンピックの記録映画というだけではなく、時代の記録映画でもある作品。