映画「鑑定士と顔のない依頼人」(2013)の感想。骨董界のサスペンス劇。

2013年のイタリア映画。ジュゼッペ・トルナトーレ監督。

老齢の古美術鑑定士が主人公。確かな鑑定眼で財産を築いた成功者だが、一風変わった人物でもあった。ある日、電話で女性から鑑定の依頼を受ける。邸宅に赴くと、そこは値打ちもののアンティークであふれていた。契約を結ぼうとするが、なぜか彼女は姿を現わそうとはしない。

最初は骨董界を舞台にしたサスペンス劇だと思ったが、かなり人間の深い心理まで踏み込んできた。中盤では、引きこもりの女性を鏡にして、主人公の心の暗部を描き出すのかと思ったが、更に話は深まり哲学的な問いにまで入っていく。

「贋作の中にも真実は宿る」というのがこの映画のキーフレーズ。偽物の中にも真実があるなら、本物だけを追い求めることに意味があるのかという問いかけ。オリジナルというだけで、莫大な価値が生まれる骨董の世界へのアンチテーゼだろう。卓越した審美眼を持つ主人公が、最後にそこにたどり着いたというのは、何とも皮肉な結末だ。

主人公役のジェフリー・ラッシュの演技は秀逸。老紳士の心の移り変わりを見事に表現している。

この映画では、邦題よりも原題の”La migliore offerta”、英題の”The Best Offer”の方がストーリーの核心をあらわしていてしっくりくる。オークションの落札価格と重ねて、主人公にとってのベストオファーが詐欺師グループからのものであったことを示すラストシーン。深い余韻を残している。あまり知られてはいないが、傑作と言える作品だ。