カトリーヌ・アルレーといえば悪女。この作品でも二人の悪女を描く筆が冴えまくっている。
富豪の未亡人のイリーナは、事故で重傷を負った義理の息子を亡き者にして財産を独り占めしようとする。そこで過去にも患者を死なせる裏稼業の経験のある看護師ヘルダを雇う。イリーナに報酬を約束されたヘルタは、看護師として義理の息子の世話を始めるが、思わぬ展開になっていく。
二人の悪女の物語ではあるが、男に虐げられた女たちの辛辣なメッセージでもある。「二千万ドルと鰯一匹」は、男は女たちに二千万ドルの夢を見せるが、実際に与えるのは鰯一匹という意味。
ストーリーはシンプルだ。男たちの描き方が単純なのは、裏を返せば男は女たちを一面的な扱いしかしないということ。食い違う男と女の関係は、ヘルタが義理の息子を口説いて結婚を迫るシーンと恋人ミオドラッグへの打ち明け話しのシーンで徹底的に描かれる。理づめで理解しようとする二人の男と、感情にうったえるヘルダの説得はまったくかみ合わない。
クライマックスは二人の悪女対決となる。勝負は一方的になるが、そこからオチが白眉。古畑任三郎に「動機の鑑定」という傑作があるが、それと同じように読者をあっと言わせることが二人のあいだに起きる。女性は怖いと心底思わせてくれる終わり方だ。
悪女を描いた作品としては傑作だと思う。さすがにカトリーヌ・アルレーだ。