斎藤充功著「消された外交官 宮川舩夫」の感想。

帝政末期から太平洋戦争の終戦まで、対ソ外交で活躍した宮川舩夫に関する評伝。

ロシア専門の外交官といえば、近年ではお馴染みの佐藤優氏が思い浮かぶが、それよりも半世紀以上も前に、ソ連を相手に奔走していたのが宮川舩夫である。ノンキャリアとして外務省に入省して以来、彼の日ソ外交における歩みは、まさに歴史の現場を目撃し続けたと言ってよい。あまりに有能であったため、上司たちが手放そうとせず、キャリア官僚への転換を果たせなかったほど、その実力は高く評価されていた。

ロシア革命、第1次世界大戦、そして第2次世界大戦という激動の時代において、外務省きっての「ソ連通」として果たした役割は、日本外交史においても特筆に値する。

しかし晩年、彼は悲劇に見舞われる。戦後、宮川はシベリアに抑留されたのち、モスクワへと移送され、不遇のうちに命を落とす。不当拘束であったためにソ連当局も公表せず、家族に消息が伝えられたのは、かなり後のことであった。

日本への帰国を果たせなかったのは無念であったに違いないが、これほどまでの活躍を見れば、外交官として本望であったのではないか。当時の外交資料としても、本書はきわめて興味深い。