映画「関心領域」(2023)の感想。

アウシュビッツ収容所の所長一家の生活を描いた作品。

延々とドイツ軍人一家の生活が描かれる。大きな屋敷に何人もの使用人がいて、かなり裕福な暮らし向きだ。子供たちと夫婦はピクニックに出かけたり邸内で遊びに興じたりと、幸せを絵に描いたような日々を送っている。

しかしよく目をこらすと、子供が入歯で遊んでいたり、どこからか持ち込まれた下着を使用人たちが分配したり、内緒話にどこか不穏な雰囲気があったりと、妙な光景が見られる。それもそのはずで、ここはアウシュビッツ収容所の隣にある所長一家の住む家なのだ。

画面には収容所内の残酷なシーンは一切出てこない。平和の家庭は、まるで現代のサラリーマン家庭のように転勤で頭を悩ませる。この所長も家族がこの家に残れるように手を尽くす。結局、単身赴任することになるが、すぐに元に戻ることになる。隣で起きていることに比べれば、なんとも些細な出来事だ。観ている観客は、ただ想像で収容所のことを思い浮かべることになる。そして画面の家族と対比させる。

アイデアの作品だと思う。視点を変えることで主題を際立たせるという思い切った方法で、かなり成功している。考えさせられるが、やはり悲劇そのものを描いてはいないので、そう思って観る作品になると思う。