映画「プーサン」(1953)の感想。市川崑監督。

横山泰三の漫画「プーサン」と「ミス・ガンコ」をもとにした社会諷刺作品。市川崑監督、伊藤雄之助、越路吹雪出演。

予備校の教師野呂は独身で間借り生活を送っているが、学生のメーデー集会に巻き込まれて学校をクビになる。職探しもうまくいかず、ギリギリの生活を送るようになる。ようやく荷造り係の職が見つかるが、その矢先に下宿先の思いを寄せる娘の自殺未遂の報が入る。

昭和28年の世相が画面に映し出される。すでに終戦から8年たち、混乱の時代からは立ち上がりつつあったものの、まだ社会は貧しい。それでも変革の兆しは確かに見えていた。越路吹雪のカン子はエネルギッシュさは、女性の社会進出の象徴だ。メーデーの集会は、弾圧され続けてきた左翼の台頭を示す。これからの時代を担う若者たちは元気で楽観的だ。警察予備隊の創設は権力構造の変化を示唆している。

一方的、その貧しさを体現するのは主人公の伊藤雄之助演じる野呂。高齢者は新しい時代に対応できなくても静かに生きていればよい。若者たちは過去など眼中にない。しかし、中年世代は新時代を受け入れられず、過去をいつまでも引きずっている。軍事産業に関する仕事に手を出すのをためらってしまうのも、まさにその象徴だ。

変革期とその間で苦悩する中年を軸に、当時の世相を映し出した作品。外食券など興味深いアイテムも登場して、昭和28年という時代をそのまま切り取ったような貴重な記録でもある。