映画「蒲田行進曲」(1982)の感想。

つかこうへい原作、深作欣二監督作品。

時代劇撮影所の大部屋役者ヤスは、スターの銀ちゃんの妊娠した恋人を押しつけられる。彼女と結婚することになり、生活のために危険な役を次々にこなしていく。そして、階段落ちという命の危険がある演技を引き受けることになる。

華やかな銀幕の世界の裏側で繰り広げられる3人の人情劇。虚構の世界の映画の裏にある現実の物語をテンポよく描いている。

この作品では、ストーリー設定に組み込まれた表裏の隔たりの大きさが、非常にうまく機能している。華やかできれいな映像の裏には、見得を切らざるを得ない役者稼業のつらさと貧乏生活に甘んじる人たちの悲哀がある。

3人の俳優についても裏表が役づくりの重要な要素になっている。

松坂慶子演じ女優は、わがまま女優と良妻賢母という女性の持つ裏表をうまく演じている。

銀ちゃんを風間杜夫にキャスティングしたのは成功。風間杜夫はもともと影のある俳優。そこに派手な銀ちゃんの演技をすることで、裏が表を際立たせている。

ヤスの平田満は、階段落ちで生から死へ向かう究極の裏表を好演している。

裏表を行き来する急展開が随所にちりばめられているのでスピード感があり、凝りに凝った完成度の高いドタバタ劇になっている。

最後に、すべてをひっくり返して裏が表になる仕掛けもいい。観ている人を幸せにしてくれる。