NHK韓国ドラマ「バーニング」(原作村上春樹)の感想

年末にNHKで放映された韓国ドラマ「バーニング」を見た。韓国の若者が感じる閉塞感がうまく表現されていて、いいドラマだと思った。監督が「ペパーミント・キャンディー」 や「オアシス」のイ・チャンドンだと知って納得。

主人公は農家の息子。母は既に家を出ており、父は暴力事件を起こしその後始末に奔走する。安定した職もなく、将来に希望が持てない。そんなときに、偶然幼なじみの女性と知り合う。

冒頭のパントマイムのコツを語る場面で意味深長な言葉がでる。「そこにミカンがあると思い込むんじゃなくて、そこにミカンがないことを忘れればいいのよ。」

幼なじみを通じてお金持ちと知り合いになる。彼は丁寧な物腰で若き成功者のように見えるが、何をしているのかよくわからない。あるときハウスを燃やしているんだと不思議なことを言う。その言葉に影響され主人公はハウスを燃やそうとしてしまう。そんなある日、突然幼なじみがいなくなる。主人公は探し回るが見つからない。ラストシーンでお金持ちが別の女に化粧をするシーンが映し出される。

メタファー満載で、考えさせられる構成。

主人公にとって幼なじみは、欲しいもの、幸せなもの、そして安心できるものの象徴だ。だが、彼女は彼のものにはならない。そして井戸の件から、信じていた彼女の存在自体が幻想であることが暗示される。

その幼なじみの幻想をつくりだしたのがお金持ちだ。洗面所にあった化粧品を使い、パントマイムの論理で巧妙に。彼は庶民の夢をつくりだす側の人間だ。
お金持ちは遊んでいるように見えるが、ハウスを燃やすことこそが彼の仕事だ。

古いビニールハウスは庶民の生活の糧であり、時代遅れになったもの。それを葬り去ることでお金持ちは更にお金持ちになる。

お金持ちは自分の手を汚さない。ハウスを燃やすのは洗脳された主人公だ。搾取する側と搾取される側の関係に組み込まれた主人公。

最後のシーンで、お金持ちは別の女に化粧をして、また別のハウスを燃やそうとしている。

古き良き時代の「勉強していい会社に入れば幸せになれる、頑張れば幸せになれる」といった将来の夢をよりどころとしている庶民。ミカンのパントマイムのような巧妙な化粧により、そういった実体のない幻想を信じ込まされているだけなのに。世の中は既に変わり、格差が固定化してしまっている。

一部の特権階級のみが繁栄し、庶民は搾取されるだけという現代社会のシステム。分断された社会の根本的な問題を指摘しているドラマだ。