映画「バルカン超特急」(1938)の感想。クラッシックな娯楽サスペンス作品。

ヒッチコックのイギリス時代の作品。原題は、”The Lady Vanishes”。邦題のつけ方のセンスが光り、先ずタイトルに魅了されてしまいそうだ。

ヨーロッパの架空の国パンドリカを走る国際列車。ヒロインのアメリカ人女性は、車内で知り合った老女が消えてしまったことに気づく。しかし、周りの人々は口裏を合わせたかのように、老女の存在を否定する。政治的陰謀が影を落とす中、彼女は知り合った音楽研究家とともに捜査を始める。

出発前のところは雑多な人間模様が表現されていて、コミカルな演技が楽しい。サスペンスの筋立ては、いたってシンプル。おしどり探偵コンビが活躍するが、ミステリーとしてはそれほど展開は広がらない。

ほとんどが列車内のセットでの撮影。予算も多くなかったろうし、当時の特撮技術を駆使してはいるが、今とは比べるまでもない。だが、人間模様の表現やセリフのやりとりから、エンターテインメントとしての銀幕の華やかさを感じる。

この映画がつくられた1938年は、ドイツのオーストリア併合からズデーテン侵攻のあった年。大戦前の最も緊迫した国際情勢の頃の話。終盤の平和主義か戦争かの問答にも、こういった時代反映がみてとれる。

サスペンスものではあるが、軽快なテンポとコミカルなやりとりで、優雅なクラッシック映画の雰囲気を味わえる。時代背景を考えながら鑑賞すれば、より興味深いと思う。