映画「終電車」(1980)の感想。フランソワ・トリュフォー監督、カトリーヌ・ドヌーヴ主演。

ドイツ占領下のパリを舞台に、劇団での男女の愛を描いたドラマ。フランソワ・トリュフォー監督、カトリーヌ・ドヌーヴ主演。

ナチス占領下のパリ。劇場支配人はユダヤ人であるがゆえに地下に身を隠していた。代わってその妻が劇場を切り盛りしていたが、新人俳優に心を惹かれていく。

何と言ってもカトリーヌ・ドヌーヴの演技が見どころ。地下の夫を訪ねるときの妻としての顔、劇場の経営者としての顔。舞台での女優としての顔、そして若い男に惹かれる女としての顔。一見すると何ごとにも動じない鉄仮面のような強さを感じる表情だが、それぞれ顔を微妙な変化で演じわける。

背景はナチス支配下のパリ。しかしナチスによる暴力的な振る舞いは描かれない。反対にナチスの威を借る批評家が劇団員に胸ぐらをつかまれる描写があったりする。そうすることで、逆説的に占領下の息苦しい雰囲気が伝わってくる。非常にうまい手法だと思う。画面で繰り広げられる劇団の日常ストーリーが自然に背景に溶け込んでいて、リアルな感じが醸し出されている。

それから、作品の構成が三重になっているのもポイント。劇中の観客は劇中劇を観る、我々は舞台裏の物語を観る、そしてドヌーヴの心の中を見ようとする。3つめは難解だ。見ようとしても見ることができない女性の愛の心理。見る側はますます惹きつけられるという仕掛けだ。

そして、この構成を生かしたクライマックス。恋に落ちたと思わせたドヌーヴが、この三重構成を破って劇団の舞台に登場して観客の前に現れる。ウイットのきいた終幕だ。

観ている側が翻弄されるようで、演劇の持つ力が伝わってくる魅力的な作品。