クリント・イーストウッド監督による法廷スリラー映画。
主人公の青年があり得ないような偶然により窮地に陥る。ヒッチコックならここから手に汗握るシーンの連続で、最後は脱出に成功して一件落着というサスペンスになるところだ。ところがイーストウッド監督は別の方法でハラハラ感を盛り上げていく。
正義がテーマであり、主人公は一見自分の犯した罪の重さを感じる真人間のような振る舞いを見せる。無実の犯人を助けるために、敢えて自身にとっては不利な言動をとる。この流れなら最後は自白をして正義の人になるのではと思ってしまう。だが、結局彼は保身にはしる。外堀は埋められてきているのに、家族を守という理由のもとに、頑として真実を語らない人間になる。
これがイーストウッド監督の映画の作り方。正義を信奉する人たちは確かに世の中にはいる。しかしもう一方には現実というものがあり、多くの正義はそこに飲み込まれている。主人公もそうだ。悪人ではないし一定の良心を持っている。まさに現実の社会を投影しているような人物像だ。
エンディングも、人間の本質的なところに迫るかに見えるが、肩すかしで終わる。爽快感でもないし後味の悪さでもない微妙な感触が残る。複雑な感情を呼び起こす展開で、映画づくりのうまさが際立っている。