映画「海外特派員」(1940)の感想。ヒッチコック監督の楽しいサスペンス活劇。

ヒッチコックがアメリカに渡り、「レベッカ」に続いてつくった作品。当時は戦時下で、ナチスドイツの時代。ヒトラーの側近ゲッペルス宣伝相もこの映画を観たという。

第二次世界大戦直前に、アメリカの新聞社からヨーロッパに特派員として派遣された主人公。目的は和平のカギを握るオランダの政治家への取材。しかし、その政治家は、平和会議の会場で射殺されてしまう。実は、殺されたのは身代わりで、本物はドイツのスパイ組織に拉致されていた。また、取材途中に知り合いになった平和活動家が事件に関係していることもわかる。主人公には次々に危機が襲いかかる。

とにかく中身が詰まっていて、次から次へとハラハラさせる趣向が繰り出される。風車への侵入、カーチェイス、傘の森の中での暗殺、高層ビルからの落下、濡れ衣で警察からの逃亡、飛行機の墜落。心理的切迫感が途切れることがない。それでいて、悪の陰謀を遠巻きに感じさせるだけで、真相をなかなか明かさない。

一方で、コミカルタッチの演出がところどころに入り、ヒロインとのラブストーリーも同時進行する。ヒッチコック作品によくあるサスペンスのパターンだ。後の作品なら、ケーリー・グラントやジェームズ・スチュアートあたりがもっと洗練された構成で主人公を演じている。

この作品はヒッチコックが41歳で、この後の20年くらいに続々と名作をつくっていく。とくかく面白いものをつくってやろうという脂ののった時期のエネルギーを感じる。最後の飛行機の不時着シーンは、時代を考えれば圧巻だ。

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