宮家邦彦著「中東 大地殻変動の結末」の感想。

著者は元外交官で中東の専門家。イスラエル、イランを中心とした現在の中東情勢の解説本。

「混迷を深める」という枕詞が常につけられる中東情勢。簡単な解説書を読んでも、とにかくわかりずらい。イスラエルは長い歴史と建国以後の周辺国との戦い。アラブ側も、そもそもイスラム、アラブという共通点があるのに、国の数が多いうえにそれぞれの立場が違っている。こういった事情により、なかなか整理したかたちで頭に入っていかない。

本書では、そういった点を簡潔に解説してある。とくに、各国の本音の部分がいい。どの国もパレスチナ問題を本気で解決しようという気はほとんどない。どうすれば自国の利益になるかを考えている。そうした各国の思惑が明確に示されており、中東情勢を現実的に理解するうえで非常に参考になる。

更に、忘れてはならないがイランの存在。イラン革命が一国の体制変化だけにとどまらず、中東全体の状況を大きく変えてしまった。アラブ側では、将棋の飛車角になるはずのエジプトとサウジアラビアの力が低下しており、イランの影響力が相対的に強まるのは当然のことだ。イランというキープレイヤーが、どんな動きをしているのか。何か事件があればイランとの関わりという視点が必要であることがわかる。

著者は日本の外交が中東にしっかりと向き合っていない現状を嘆いている。確かに、外務省の出世競争を見れば一目瞭然だ。米欧がトップ、次に中露韓などの隣国が続き、中東は視野に入ってこない。これでは中東をただの石油供給元としか見ていないと思われても仕方がない。

今の中東情勢を知るうえでの絶好のガイドになる本。おすすめ。