田中角栄逮捕に至ったロッキード事件の真実を探ったノンフィクション。
さすがにベストセラー作家だけあって、組み立てがうまい。ポイントになる部分をタイミングよく出して、事件の背景がどんどん拡大する構成になっている。ノンフィクションではあるが、娯楽小説を読んでいるような感じさえ受ける。もし、ロッキード事件を、総理が賄賂を受け取ったために逮捕されたくらいの予備知識しかなければ、次々と出てくる裏情報に引き込まれると思う。
一貫して、田中角栄は冤罪という論調で筆が進む。榎本秘書が運んだ5億円は実は別の用途のものだったり、田中はロッキードではなくダグラス推しだったりという推測が事実なら、この事件そのものが成り立たなくなる話だ。
また、同時期に行われていた対潜哨戒機選定が本事件の核心で、ロッキードのトライスターの導入がトカゲの尻尾切りとして使われたという話は、なかなかの信憑性がある。もしそうだとしたら、疑惑の矛先が中曽根康弘へ及び、まったく違った事件になる。更に、児玉誉士夫への21億円はキックバックされてニクソン再選に使われたのではという話には驚くばかり。
当時の世相が田中有罪の追い風になったというくだりは、なるほどと思う。国会で証言する全日空若狭社長は、どう見ても悪役にしか見えなかった。
冤罪であっても、田中のまわりにいろんな金が流れていたという事実だろう。無実を証明するにも、そういった裏金の存在に触れてしまうというのが弱みでもあったのではと思う。政治と金が切っても切れない関係であった当時の世相が浮き彫りになる。
それにしても、こんな入り組んだ事件をトライスター関連だけで逮捕有罪にもっていったことに、検察の執念を感じないわけにはいかない。やはり相当に無理筋な捜査だ。
ロッキード事件全体を知るための好著。