「鎌倉殿の13人」(全48回)の感想。三谷幸喜の名人芸を見せてもらった。

鎌倉劇場での、源頼朝、北条義時の2代にわたる粛清劇が終わった。ここまで権力闘争に焦点を当てた歴史ドラマは珍しい。前半のコミカル路線は徐々になりを潜めていって、後半は「そして誰もいなくなった」のような展開になった。次は誰かという興味で長丁場でもぐんぐん引き込まれて、最後まで面白く観ることができた。

政治の本質は権力闘争であることは、どこの国でも同じ。お隣の韓国では、権力闘争による粛清劇が歴史ドラマの王道。朝鮮王朝では、王族内で兄弟で殺し合うのは当たり前で、場合によっては親子でも争う。謀反の濡れ衣を着せて粛清してしまうというのが基本パターン。

それに比べて日本の大河ドラマでは、英雄伝や新しい時代の夜明けの物語に闘争劇が組み込まれているだけで、あからさまに殺し合いを主軸に取り上げることはあまりない。

実際に頼朝と義時は、粛清基本パターンそのままに、たくさんの人たちを殺しながら権力を強化している。ふつうに描けば陰惨な雰囲気になってしまうが、そこを逆手にとって粛清劇を使ってストーリーをどんどん盛り上げていったのはうまい。大河ドラマは中だるみしやすが、それがまったくなかった。

登場人物の中でのMVPは、前半は源義経、後半は源仲章。とくに源仲章にスポットを当てて、憎らしいキャラで登場させたのはさすが。軍司衝突の承久の乱にまでいくほど鎌倉と朝廷の対立は決定的になっているわけで、手紙のやりとりだけではドラマ的には物足りない。後鳥羽上皇を鎌倉劇場に連れてくるわけにはいかないので、上皇の代理人として源仲章を選んだわけだ。

北条義時の小栗旬は、権力者の影のある姿を好演した。後半、権力を持つにつれて人相が悪くなっていく静かな演技はとくによかった。それでいて目立ちすぎない。主役とはいっても、鎌倉を舞台にした群像劇なのだから。

鎌倉時代が大河にあまり取り上げられないのは、面白く描くのが難しいから。ヒーローと呼べるのは義経くらいだし、清盛以降延々と抗争劇が続くので、話がつまらなくなりがちだ。それを打ち破ったとにかく面白い大河ドラマだった。

三谷幸喜は、もともと群像劇の腕には定評のある脚本家。魅力的なキャラクターをつくり、それを縦横無尽に操る腕は名人芸だ。「鎌倉殿の13人」は、三谷幸喜の傑作だと思うし、歴代大河ドラマの中でもピカイチの面白さだった。