飯田真紀著「広東語の世界」の感想。

広東語に関する一般向けの解説書。文法的な特徴はなどはほんの少しで、広東語とその文化圏の紹介であり、かなり興味深く読んだ。

広東語は香港とその周辺で話されていて中国語の有力な方言ではあるが、標準中国語とは意思疎通ができないくらいにかけ離れている。その差は英語とドイツ語くらいもあるというのが一般に知られた広東語の知識だと思う。

この本では、中国語としての広東語の説明から始まって、広東語から見た中華圏文化の奥行きの深さに言及していく。

目からウロコ的な話としては、日本と欧米では中国語としての広東語の位置づけがだいぶ違っていること。日本では、書店の中国語コーナーの片隅に会話本がわずかに並んでいるくらいの中国語の一方言という扱いだが、アメリカでは中国語と言えば広東語を指すくらいの時代もあったという。言われてみれば、英語の広東語入門書はやたらに多いことは気がついていた。ビジネスをするなら北京より香港というせいかなと思っていたのだが、こういう背景があったのか。

それから広東語の書き言葉の話。今まで解説を読んでもしっくりこない部分で、関西人は関西弁を話すが書くときは標準語を書くと同じようなことかなと思っていた。どうもそれとはちょっと違っているようだ。確かに、広東語の新聞があるのでこういう説明は成り立たない。広東語が書き言葉の体系も持っている言語であることがわかりやすく説明してある。

広東語の語学的説明だけでなく、広東語圏についての文化論でもあり、かなりの力作。おすすめ。