映画「善き人のためのソナタ(2006)」の感想。

2006年公開のドイツ映画。アカデミー賞外国語映画賞受賞。

東ドイツの秘密警察シュタージのヴィースラー大尉は、国家に忠誠を尽くす有能の官吏であった。ある日、反体制の疑いのある劇作家ドライマンの監視を命じられる。アパートに盗聴器を仕掛け、昼夜を通しての監視を始める。盗聴を行ううちに、次第にドライマンたちの思想に共鳴するようになる。

重苦しいスパイ映画の雰囲気があるが、実はヒューマンストーリー。強面の秘密警察大尉が思想転向する話だが、後光がさして劇的な心変わりをするわけではない。

冷血な取調官の表情は全編にわたって変わらない。しかし、些細な報告事項を隠すような行動が生まれ、内面では確実に真の人間性が芽生えてくる。そして盗聴中の顔つきが、無表情ながらも微かな変化が現れ始める。体勢側から見ると、徐々に蟻地獄にはまりこんで、西側の思想に染まっていったと言えるだろう。決死の覚悟はあるのだろうが表には出ない。国家の抑圧下では、感情を押し殺すしかない。その微妙な表情がこの作品の見どころになる。

ベルリンの壁崩壊前の東ベルリンを舞台にした人間ドラマの秀作だと思う。おすすめ。