カトリーヌ・アルレー著「理想的な容疑者」の感想。

カトリーヌ・アルレーによる仏冒険小説大賞受賞作。

ドライブ中の口論で、妻を車から降ろし置き去りにした夫ミシェル。翌朝、身元不明の女が車にひき殺された状態で見つかる。状況証拠から容疑者となったミシェルを、実の兄夫婦でさえ犯人ではないかと思い込むようになる。

サスペンスものとしての展開はあるし、最後に驚きの仕掛けもある。それらは本作にとってはサイドストーリーだ。本筋は夫婦の愛とすれ違いの物語だ。すきま風が吹き始めた夫婦の心情が吐露される。互いに身勝手なことを言っているが、相手との歩み寄る気配はなくなっていく。惹かれ合う気持ちもあるが、二人の距離は徐々に離れていく。実に複雑だ。

対比として兄夫婦についても描写されている。こちらは主人公夫婦よりもうまくいっているようだが、心中はそれほど穏やかではない。破綻の芽はどこから顔を出してもおかしくない。

男女間の心理の動きこそサスペンスといった作品。下手な事件よりも、こちらの方がずっと怖いと思わせてくれる。