映画「おんどりの鳴く前に」(2022)の感想。

2022年制作のルーマニア映画。

ルーマニア北東部の静かな農村。中年警察官イリエは、果樹園を持つことを夢に鬱々とした日々を送っていた。そんなある日、斧で頭を割られた男の死体が発見される。捜査を進めると、徐々に村の裏の顔が明らかになってくる。

主人公のイリエは小市民を代表するような警察官だ。何の面白みもない日々の業務に鬱々とした気持ちでいる。村長たちの悪事を薄々と気づいているが、具体的な行動を起こすことはない。むしろそこに取り込まれてもいいような態度を見せている。何の力も持たない一般市民であれば、こうならざるを得ないだろう。

そんな彼であるが、殺人事件とそれを捜査する新任警察官が暴力を受けたことで、眠っていた良心が目覚める。そして被害者の妻が村から追われるに及んで、はっきりとした正義感のようなものを自覚する。しかし、どうすることもできない。

決して世の悪行と世直しのみを前面に押し出した作品ではない。最後は悲劇的な終わり方をする。とにかく虚しいが、イリエが悪事に立ち向かったのは確かだ。心の中には葛藤はあったろうが、そこを表には出さない。最後の場面で、襟を正すことで彼の決意を示しているのみだ。