小川哲著「言語化するための小説思考」の感想。

著者の直木賞受賞作「地図と拳」を読んだときに、確かに面白いが、かなりとっちらかった小説だと思った。しかし、決して動かない箇所がいくつかあって、そこで作品全体をしっかりと支えているという印象を受けた。まるで、暴れ馬をうまく乗りこなしているかのように。この本を読んで、著者の思考がわかると、なるほどそういうわけでこんな小説ができあがったのかと腑に落ちた。

著者の小説の書き方は、自己表現であるとか、書きたいことをかくとか、そういった単純なレベルではない。一貫しているのは、読者のことを常に考えて思考を練っているということ。しかし、読者目線を意識しているものの、ありきたりの小説パターンを踏襲するだけにはとどまっていない。

二流広告マンのマーケティングの話には笑ってしまった。だいたいどの分野でも、このように状況分析から始めると、成功者の後追いをするだけに終わってしまう。ヒカキンの動画を見て同じようなものをつくっても、三流四流のものしかできないのと同じだ。

一方で著者は、アイディアは生み出すものではないとも言っている。それでは二流広告マンのままではないか。いったいどうすればよいのか。ここでは答えを書かないが、本書ではその方法を公開している。さすがに著者は賢い。創作の秘密はそこにある。