木村元彦著「無冠、されど至強 東京朝鮮高校サッカー部と金明植の時代」の感想

かって、影のナンバーワンと言われた東京朝鮮高校サッカー部についての物語。

70年代から80年代にかけて、東京朝鮮高は、帝京をはじめとする強豪校と対等以上の戦績を残した。そしてそのメンバーたちが卒業後に所属した在日朝鮮蹴球団は、国内のトップチームに対し無敵の連勝を重ねた。

在日チームの活躍が裏歴史となってしまった当時のサッカー界を通して、政治や民族問題がスポーツに持ち込まれた悲劇と、そこでサッカーに打ち込む在日サッカー選手と指導者の話が語られる。

その一方で、当時の北朝鮮サッカーのレベルの高さと日本サッカー界の冬の時代が浮き彫りになる。

最強を誇った在日チームであったが、本国北朝鮮チームとの対戦では苦戦している。

1964年東京オリンピックのために来日した北朝鮮代表との親善試合は、後半はゆるめてもらうほどの一方的なものとなり、在日朝鮮蹴球団は0-8で完敗した。このときの北朝鮮代表は、1966年のイングランドW杯でベスト8に進出したときのメンバーで構成されていた。

1972年に訪朝した東京朝高は1勝3敗であった。同年全国大会優勝の習志野の北朝鮮遠征は3戦全敗であった。

1973年に来日した平壌軽工業高は6試合を行い、圧倒的な強さを見せた。

最強を誇った東京朝鮮高と在日朝鮮蹴球団であったが、本国チームのレベルの高さに圧倒されている。これが当時のヒエラルキーなのだろう。日本よりも在日、在日よりも北朝鮮という力の差が歴然とあった時代。日本サッカーの歴史を知るうえで、非常に興味深い本だと思う。