映画「しとやかな獣」(1962)の感想。川島雄三監督の傑作ブラックコメディ。

1962年公開の川島雄三監督作品。団地の一室を舞台にしたブラックコメディ。

団地の高層階に住む家族は、たかりと詐欺で生計を立てている。元海軍中佐の主人とその妻は上品ぶってはいるが、娘を流行作家の妾として金を引き出させている。更に、芸能プロダクション勤めの長男が横領した会社の金も当てにした生活を送っている。ある日、芸能プロの社長が女事務員を連れて金を取り返しにくる。実は、その事務員は息子や社長、税務署員を手玉にとる悪女であった。

「万引き家族」ならぬ「たかり家族」という当時としてはかなり前衛的な設定。アパートの一室でのドタバタ劇はテンポがあり、流れるようなセリフのやりとりが続く。特に父親役の伊藤雄之助のとぼけぶりには笑ってしまう。

コメディとしてもかなり面白いが、それだけでなく戦後復興期の世の中への痛烈な批判が隠れている。戦後の貧困時代を語り始めると、父親と女事務員の表情が急に真顔になる。スローガンは、「お国のため」から「豊かになる」に変わったが、無節操に金を追い求めるだけで、息苦しさは戦争中と同じ。狭い階段に閉じ込められ、上るか下るかしか選択肢はない。金を稼いだものが成功者で、モラルなどあったものではない。

傑作と言える風刺映画だと思う。何よりも観ていて面白い。