映画「PERFECT DAYS」(2023)の感想。役所広司主演。

2023年製作の日本・ドイツ合作映画。ヴィム・ヴェンダース監督、役所広司主演。主人公平山はトイレ清掃員。独り暮らしの独身で外界との付き合いをほぼ絶って、安アパートと仕事を往復する単調な日々を繰り返している。

東京はたくさんの人たちが様々な活動をするエネルギッシュな大都会だ。その東京のど真ん中に、まるで台風の目に入ったかのような空間で生活をしているのが主人公平山。朝起きて身支度をして仕事に向かう。昼は公園のベンチでサンドイッチを食べ、木々の写真を撮る。帰り道に、銭湯に入り定食屋で晩酌をし、帰宅後は100円本を読んでから寝る。たまに居酒屋に行ってママさんと短い言葉を交わす。

世捨て人のような生活だが、よく考えればパーフェクトな一日だ。責任を持って仕事に取り組み、勤務後には酒や本の楽しみがある。平凡だが充実した毎日のようにも見える。定食屋で酒を飲む平山の横の地下街道を忙しく通り過ぎる人々との対比が、何より彼の居場所を際立たせている。

中盤過ぎから平山の生活に小さなさざ波が立つ。姪っ子が訪ねてきてしばらく滞在したり、同僚が突然止めたり、妹が姪を探しにきたり、ママさんの身の上相談的な場面を目撃したりと。外界とのわずかな接触が生じる。ただ、深くは突っ込まない。これらは平山の外側にあるもので、今の生活が大事だとでも言っているかのようだ。

平山の生き方が理想的かどうかはともかく、生活に追われたり、地位や名誉、お金のためにあくせく生きる多くの人たちの対極に、こんな満ち足りた場所がある。今の世相を見れば、だんだんとこういうところに注目する人が増えているのを実感する。現代社会に対するアンチテーゼでもある映画だ。