映画「日本沈没」(1973)の感想。ただのパニック映画でない迫力の作品。

小松左京のSF小説が原作。70年代にかなりヒットした作品で、当時テレビドラマも制作された。あらすじは作品名通りに、地殻変動により日本が海中に沈没してしまうというパニックストーリー。

緊迫の海底調査から始まる。小林桂樹演じる田所博士のがさつな奇人変人ぶりが相まって、緊張感が盛り上がる。小林桂樹はボーッとした性格の役の印象があるが、ドラマ「赤ひげ」などでも見せたこのような鬼気迫る演技もうまい。

一方で、青年小野寺を演じる藤岡弘の暑苦しいほどの若さが描かれる。内閣や官邸内の登場人物にも躍動感があって、昭和の日本のエネルギーを感じる。

特撮技術は現在のCGに比べれば見劣りするが、出演者の演技とのうまい構成で迫力は充分に感じる。東宝の古き良き時代の過剰な特撮映像が今となっては新鮮に見える。

この映画は単なるパニックものではなく、祖国とは何かという重いテーマを投げかけている。国とは何か、祖国とは何かという問いは、今の時代ではピンとこないものになっているが、ひとたび戦争や大災害が起きれば、どうしても直視しなければならないものになる。生きのびても祖国を失った人々のこれからはどうなるのかという厳しい現実を暗示しながら映画は終わる。

日本が沈没するというセンセーションな設定だけでなく、厚味があってなかなか見せてくれる作品。