1963年仏伊製作のモノクロ映画。フェデリコ・フェリーニ監督作品。
「映画監督はつらいよ」といった作品。もちろん主人公の映画監督はフェリーニ自身。現実社会と妄想、過去の記憶が入り混じって映画づくりの苦悩が描かれる。
名声を得た映画監督であっても、過去の記憶からは逃れられない。ベースになるのは子供時代の体験であったり、家族との関係であったりと、些細な記憶でも作品には大きな影響を及ぼしている。
名監督である彼には作品づくりについて選択の自由がある。だが、そう簡単には決断はできない。逆に自由があるために、彼の周りはカオスのような状況を呈してしまう。プロデューサーからの容赦ない要求、脚本家からは細かい指摘、役者たちは勝手に動き出し、挙げ句の果てには役の斡旋を求められたりもする。監督の日々の仕事は、芸術家と言うよりもマネージャーとしての役割が大きく、それに振り回される。精神の安息を求めたくなるのも当然だ。
もちろん、理想の映画を追い求めるという監督としての矜持は忘れてはいない。それをこの作品では華やかな女性遍歴に重ね合わせている。気を惹かれる女性は次々に現れる。だが、しばらくつきあうと、これは違うということになり別の女性に乗り換える。これのくり返し。過去の女性たちとの関係を清算することができず、理想の食い散らかしといったカオスだけが残る。手にすることができない理想の映画を求め続けることこそ映画監督というものなのだ。
映画監督を生業にしている人は世界にどのくらいいるのだろう。他の仕事に比べたら、レアな存在であることに間違いない。その映画監督という職業を知るための作品だ。