舛添要一著「ムッソリーニの正体」の感想。

元都知事、元厚生労働大臣の著者によるムッソリーニの解説本。

ムッソリーニと言うとヒトラーのイタリア版と思いがちだ。ところが実際にはそんな単純な話ではないようだ。本書では、ヒトラーとの比較を通じてムッソリーニの実像が描かれている。

二つの世界大戦を背景に、イタリアの独裁者として地位を築いたムッソリーニの足跡は、まさに時代の申し子といえる。ヒトラー同様に、強運にも助けられながら階段を駆け上がり、その後の転落する生涯は、この時代を知るうえで欠かせない存在だ。

ヒトラーと同調したのは、ほんの短い時期だけで、国のトップとして自国利益の追求という当然のことを推し進めた姿が浮き彫りになっている。当時のイタリアの国力は、英米独などの強国に比べれば見劣りする。そういった苦しい政権運営の中で、必ずしも破壊的ではない彼の思想が、ファシストの独裁者というくくりで見られてしまうようになったのは悲劇かもしれない。

一方では、この時代のヨーロッパの外交戦略の解説もあり、これがなかなか興味深い。国際社会には、各国の思惑で合従連衡を繰り返す厳しい現実主義がある。表面上は何かの大義名分があるものだが、その過程はただ自国利益のみを優先しているようにしか見えない。イタリアという比較的弱小国家の視点で見ているので、なおさらそう感じるのかもしれない。

本書は、ムッソリーニという人物を知るうえでとてもわかりやすいし解説本だし、戦争の時代のヨーロッパを知るためにもよい教材になると思う。