北村滋著「外事警察秘録」の感想。

月刊文藝春秋の記事をまとめたもの。著者は元警察官僚、前国家安全保障局長。警察の外事畑、政府の中枢で対外捜査に関わってきたインテリジェンスのプロ。

警察における外事警察とは外国に関連する捜査活動のことで、テロやスパイ対策も含まれる。最近まで現職だった著者が、秘密保持が大原則と考えられるこの分野について本が書けるというのに驚いた。最近のトピックスや進行中のものもあって、大変興味深い内容だ。

もちろん書けないところがあるという大前提であるが、それでもかなり面白い。

国家と国家が前面に出るような案件は、さすがに細かいところは省かれている。プーチンと対面で話した内容は、まったく触れられていない。ご同業のであることに言葉をかけられたという話は妙にリアリティを感じさせる。

各国の機関や国内省庁間とのやりとりは、セクショナリズムを前にして意見調整の苦労は多かったと思うが、具体的話は少ないし恨み言は皆無。それだけ著者が有能な官僚であったことの証明だろう。

それからスパイ映画もどきの案件もある。現代のゾルゲのように、他人になりすまして諜報活動を行うのが当たり前なのがこの世界の恐いところだ。ロシア、中国の動きに目を光らすのは当然だが、それにしてもこの世界はすごい。

在日の総聯と民団の統一を阻止した話は、日露戦争の明石大佐の活躍を思い出すようだ。

日本の安全保障の最前線を知ることができるし、読み物としても大変面白いと思う。