青島顕著「MOCT 「ソ連」を伝えたモスクワ放送の日本人」の感想。

最近までモスクワから直接日本に向けた日本語のラジオ放送があった。出演者の多くは日本人職員。この本はモスクワ放送の日本人職員たちの足跡をたどっている。

実は70年代からこの放送を聞き始めた。西野肇さんの頃だ。冷戦期の番組は固い内容ばかりで、あまり面白いとは言えなかった。だが、毎週水曜日に「スポーツの時間」という番組だけはよく聴いていた。ソ連がオリンピックで金メダルを量産していた時代。日本では報じられないスポーツニュースを知ることができたからだ。

その後、ソ連が崩壊しロシアの声と名前が変わってからは、かなり雰囲気が変わって、気楽に聞ける番組も増えた。日向寺さん、ハバロフスク局の岡田さんの時代だ。

この本では冷戦期だけでなく、更に時代を遡っている。モスクワからの日本語放送の歴史は1942年に始まる。この頃の職員は事情は様々だが、戦争の影響や思想的な背景が暗い影を落としている。放送人になろうとして現地に向かった人はほとんどいない。苦難の果てにたどりついたのが、このモスクワ放送であったという話ばかりだ。

まさに異境であるソ連で、日本人職員たちがどんな状況で番組をつくっていたかがわかり興味深い話ばかりだ。体制の違う国に住み、制約の多い中での番組づくりの苦労。そしてそれぞれの葛藤と夢が丹念な取材をもとに描かれている。

 

手もとに残っている当時の資料。下の写真は、70年代にいただいたベリカード。

ロシア語講座のテキスト。

手書きとタイプ打ちで書かれている。