ジョン・ル・カレ著「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」の感想。

スマイリー3部作の第1弾。傑作と言われているだけあって、さすがに読み応えがある。

舞台の多くはサーカスこと英国情報部の本部で、いわゆるオフィスビルだ。幹部たちが秘書をしたがえてそれぞれの個室に陣取っている。書類が積み上がり、煙草をふかしたりコーヒーを飲んだりと、雑然とした事務職場だ。お局さまとおぼしき古参の女性秘書には誰もが気を遣う。イギリスの諜報活動の中枢といえども、ただの事務処理を行う雰囲気に満ちていて、ありきたりの日常描写がいい。

話の本筋は、幹部たちのなかにソ連の二重スパイが入り込んでいて、その人物を見つけ出すスマイリーの探偵活動。顔見知りが多いといっても、そう簡単に近づける相手たちではない。モグラ叩きは難航を極める。

単なる犯人探しだけの物語にしないのが著者のすごいところ。トリックや種明かしだけに注目するような普通の読み方ではもったいない。重厚感と余韻がにじみ出るような描写が続く。セリフの一言一言に重みがあって、簡単には読み飛ばせないので疲れるが、それが本書の楽しみ方だ。

チェコや香港、インドでの緊迫のスパイ活動にはまさに諜報活動。しかしその対極にあるような緩い雰囲気のビルの中にも戦いがある。どこの組織でもある権力争いだ。実はお偉方は、ここで白熱の椅子取りゲームを演じているのだ。そこにもソ連からの魔の手がのびている。

おいしい情報を敢えてモグラを通じてつかませる。もちろん幹部たちにとってはそれは自分の出世ポイントになる。継続的にその餌を食べ続けると、自分の勢力を保つために不可欠のものになってくる。こうなっては、組織の根本がソ連側に押さえられことになる。

極秘情報を盗み出すことだけが諜報活動ではない。情報を使って相手の組織を腐らせるという高等テクニック。そこに切り込む老齢のスマイリー。とにかく玄人っぽいスパイ小説だ。