映画「天国と地獄」(1963)黒澤明監督の感想

黒澤明監督の映画の中では珍しいサスペンスタッチの作品。個人的には、「七人の侍」や「用心棒」よりも、こちらの方が好きだ。

三船敏郎演じる靴メーカーの重役の家で起きた誘拐事件。その事件に翻弄されて、重役は今まで築いてきたものを失う。犯人のインターンは最後は捕まり、叫びながら死刑になる。

犯人は途中から明らかになるので、純粋な謎解きものではない。犯人逮捕に向けてのスリル感と重役と犯人の人間模様が鮮やかに描き出される。

タイトルのように天国と地獄の対比が鮮やかだ。高台に豪邸を構える重役は、ここまでたたきあげでのぼりつめた。だが、周囲の重役や秘書は自分の利益のみ考えるものばかりで、殺伐とした状況に囲まれている。
一方、犯人は医師でありながら、底辺の生活でくすぶっている。医師という立場なのに、人間をモルモット的に使って犯行を繰り返す。

最初から最後まで緊迫感のある映像は見事。サスペンスものはストーリーだけでも話ができてしまうが、さすがに黒澤監督の腕だ。
自分の子供でなくても身代金を支払うべきかとか深いテーマも含まれているが、そこをあまり突っ込まない。娯楽映画としてみせるための映画に徹しているところが黒澤映画の素晴らしさ。