映画「万引き家族」(2018)の感想。貧困層のホームドラマ。

カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞の話題の作品。本当の家族ではないが、一つ屋根の下で暮らす貧乏な人たちの物語。

貧困という舞台をとっているが、普通の人たちの生活が描かれる。家族は助け合うし、人情もそれなりにはある。親は子供を気にかけるし、子供は親を敬う。鍋を囲んで楽しい夕食をとる。万引きばかりにフォーカスが当たっているが、それを除けば真っ当な人たちの話だ。

貧しいが心は荒んではいない。活力はそれなりにあるし、働く意欲も十分にある。自暴自棄にはなっていない。ただ、今の状況でなんとか生きようとしているだけだ。つまり、貧しい人たちのホームドラマだ。

描き方はうまいと思う。ドラマ製作のエッセンスがつまったシーンが次々に繰り出される。子どもの虐待、娘の風俗での仕事という切ない話もうまく盛り込む。時の話題であるワークシェア、非正規雇用の首切りなどもどんどん投入する。

出演者の演技はすばらしいし、映像もきれいだ。この部分は秀逸。

ただ、脚本としては、少し浅いかなと思う。映画をみる前は、貧困により人間の尊厳が失われるところまで描くのかなと思っていたが、そこまで突っ込んではいない。

よく比較される「パラサイト 半地下の家族」では、日常を描くことだけでなく、エンターテインメント性、富裕層との対比、人間性の崩壊、悲観的な将来まで盛り込んでいる。

家族愛と日々をけなげに生きる人たちといった視線で見ればよい作品かもしれない。それぞれの場面は非常にうまく作られている。だが、本質は、技巧を尽くしてつくりこんだ貧困層のホームドラマだと思う。普通の人には、万引きという特異な切り口だけでも衝撃を受けるし、子供の万引き、切り離される家族を見ればどれほど心に響くかを計算し尽くしてつくっている。ちょっと演出過剰なアットホームドラマだ。