西村京太郎著「D機関情報」の感想。

西村京太郎によるスパイ小説。著者の自著ランキングでは1位に挙げている。

敗戦濃厚な状況の太平洋戦争末期、海軍中佐の関谷は水銀調達の密命を受けヨーロッパに赴く。その代金である金塊が潜水艦によりドイツに到着すると、それをトランクにつめ車でスイスに向かう。しかし、その途中に交通事故に巻き込まれ、金塊が行方不明になる。更に、親友であるドイツ駐在武官の矢部が事故死したことを知る。

著者によるスパイ小説とは珍しいが、かなり面白い作品に仕上がっている。盗まれた金塊の行方から、友人の不審死へと謎が広がっていき、各国の諜報員が入り乱れるスパイ戦の様相を呈する。そして終戦工作という大きな仕事につながっていく。ストーリーも複雑ではなく、気軽に読み進めることができるのも著者の作品のよさだ。

ドイツからスイスの主要都市を巡る展開は、さすがに後のトラベルミステリーの大家となる片鱗が現れている。こういったスパイものをもっと書いて欲しかったね。