2019年公開のフランス・イタリア映画。ロマン・ポランスキー監督。19世紀末にフランスで起きた冤罪事件ドレフュス事件をもとにしている。
ドレフュス事件は世界史で習った記憶があるが、一冤罪事件がフランス社会に大きな影響を与えたくらいの知識しかなかった。この作品では事件の詳細が克明に描かれていて、当時の世相を知るうえでも興味深い作品だ。
国家権力が体制維持のために隠蔽体質になるのは、いつの時代でも同じだ。この19世紀末は、更に反ユダヤ主義や絶対的権力を持つ軍部の存在がからみ合う複雑な状況。
全編にわたって画面からは、戦争の世紀である20世紀を目の前にした社会全体の暗い雰囲気が感じられる。あのフランスでさえも、ユダヤ人への扱いがこんなものだったのかと、あらためて驚く。
主人公のピカール中佐は、正義をまげない信念の人ではあるが、大臣夫人と不倫関係を持ったり、大臣昇進後にはあっさりと体制側の人間になるような人物。何より、ユダヤ人嫌いをドレフュスに面と向かって平気で公言する人なのだ。正義を守る人が、同時に俗物的な人でもあるという描き方は、よりリアルな社会描写になっている。
歴史を眺めるとき、事件が起きてはじめてその時代に目が向けられる。そういう意味で、見過ごされやすい19世紀末のフランス社会を知るうえでも貴重な作品だと思う。