映画「寒い国から帰ったスパイ」(1965)の感想。ジョン・ル・カレ原作。

ジョン・ル・カレの1963年の小説「寒い国から帰ってきたスパイ」が原作。

原作はスパイ小説の金字塔と言われているが、この映画も素晴らしい出来だ。原作のよさをそのまま映像化しているようで、ジョン・ル・カレの世界が再現されていて見応えたっぷり。

冷戦時代の暗さと鉄のカーテンの向こう側の不気味な雰囲気が白黒画面から伝わってくる。アクションはなく、騙し騙されの冷たい頭脳戦が展開される。敵を欺くためには味方からの例えどおりに、真の目的を知らされずに二重スパイとなるリチャード・バートン。諜報のプロでありながらも、ときには無慈悲なことを強いるスパイの職に忸怩たる思いを持っている。恋人の共産党員との関係が深まるにつれて、葛藤が深まっていく。その苦悩の様子が作品に深みを与えている。

東側の描写もいい。非公開裁判と諜報員との数度の接触、ラストの壁での銃撃くらいで、大がかりなセットはない。それで心理的な効果を使って恐い世界を描ききってしまう手法も見事。

スパイもの好きにはたまらない作品だ。おすすめ。