映画「小説吉田学校」(1983)の感想。

原作は戸川猪佐武の同名小説。吉田学校とは、吉田茂のもとに集まった門下生たちのグループのこと。

長い原作なので、その中から選んだ二つのテーマが描かれている。前半の対日講和条約成立までの吉田茂の苦悩は、政治家として国の行く末に心砕く姿だ。高い志に基づいた思慮深い行動。アメリカの要求に屈しない忍耐力。国のリーダーにふさわしい政治家の表の面と言える。

もうひとつの三木武吉との政争。これはまさに泥仕合。衆議院解散や野党との裏取引など、何でもありの権謀術数の世界だ。国の政治を単なる政局としてもてあそぶようで、眉をひそめたくなる。これは裏の顔になる。

考えてみれば、どちらも政治家として欠かせない資質だ。それを吉田茂が体現している。元駐英大使の外交官出身でアメリカと英語で堂々と交渉する一方で、バカヤロー発言のような粗野な面も持ち合わせる。それを一体化したのが政治家吉田茂ということだ。

森繁久彌は、本人ではないかと思うくらいに吉田茂にそっくりで、戦後混乱期の宰相を見事に演じている。後の総理、大臣などきら星のごとき政界の実力者たちが勢揃いするのも作品に重厚感を与えている。エピソードは簡略化されているが、見応え十分の作品だ。