映画「球形の荒野」(1975)の感想。松本清張原作。

松本清張原作のサスペンス。島田陽子、竹脇無我出演。

導入部はかなり刺激的。主人公は外交官の娘の女医。父はスイスで終戦交渉を行っていたが、終戦前に過労のため亡くなったと聞かされていた。ところが、唐招提寺を訪れた際に、芳名帳に父に似た筆跡を発見する。もしかして、父は生きているのではないかという疑問が浮かぶ。サスペンスものとしては、かなりつかみがうまい。

しかし、その後は少し失速気味。事件の裏には外務省と軍部との対立が背景にあるらしいが、その詳細は描かれない。殺人事件が発生しても、うまい展開に持ち込めていない。ストーリーがぼんやりしているので、作品としての反戦メッセージも弱い。

終盤の父娘の関係の描写も、ちぐはぐ感が強い。岩場での二人の会話も上すべりしている。

映像は、俳優を際立たせるような撮り方が目立つ。そこに小津安二郎作品のような人物が周囲の情景に溶け込むような映像も入る。それらが入り交じっていて、ふつうのサスペンスものとはちょっと雰囲気が違っている。

「球形の荒野」という壮大なタイトルをストーリーの中でうまく生かせなかったところが残念な作品だ。