現代社会が抱える問題を指摘した社会派スリラー映画。続編が公開され話題になっているので、今更ながら第1作を観てみた。
格差があまりにもひどくなり、荒廃した街が描かれる。市政の失敗により市民の怒りが鬱積している。主人公はその底辺で暮らすコメディアン。社会から受ける悲惨な待遇に精神まで追いつめられている。更に、生い立ちを知ることになり、そこに自身の中に闇があることを見つける。
我々も困った状況に陥ると、「もう、笑うしかないね。」などと言ったりする。主人公がピエロを演じているのは、そういうことを暗に示唆している。
終盤になって不満を持つ人々が暴徒になり、街が混乱に陥る様子が描かれる。実はこれはまだ救いがある状態だ。不満を感じるというのは、現状のルールを認めたうえで自分たちが下層にいるという考えがもとになっているからだ。つまりルールは守らなければならないものと思っている状態だ。状況が改善すれば、暴動は収まるし平穏な生活に戻っていくだろう。
しかし、主人公はその先に行ってしまった。現状のルールを認めなければ、自分は不幸でないし、むしろ幸福ですらあるという倒錯した認識を持つようになってしまう。終盤の主人公の笑いは、それまでの道化とは違って真に幸福を感じている状態なのだ。こうなってはルールは意識の外に行ってしまう。だから彼は殺人を平気で犯すようになったのだ。
この映画は今の社会に対する厳しい警告になっている。虐げられた人が不満を感じているうちはまだいい。何も感じなくなったとき、本当の社会崩壊が始まるというメッセージだ。