映画「どですかでん」(1970)の感想。黒澤明監督。

1970年公開の黒澤明監督による初のカラー作品。

高度成長期でありながら、その恩恵をまったく受けていない地域が舞台。住民たちは目を覆うくらいに貧しい生活を送っている。しかし、そこでは相も変わらぬ人間の持つ営みが繰り広げられている。貧しさにめげずにバイタリティある日々を送るもの、愛情を失なわないもの、心を病んでいるもの、色欲、金銭欲にはしるもの、夢を見続けるもの、奉仕の心を持ち続けるものなど様々だ。それこそが貧富の差に関係ない人間の本性であり世の縮図だ。

頭師佳孝が演じる少年六ちゃんがキーポイントになっている。知恵遅れの彼は、毎日機関車の運転手になったつもりで町中を走りまわる。とにかく時間厳守でしゃにむに前へ前へと突進する。「どですかでん」という意味不明の言葉を発しながら。

もちろんこれは経済発展にひた走る当時の日本社会を表現したものだ。「どですかでん」は、豊かになるという目標であったり、所得倍増のようなスローガンだ。しかし取り残された住民たちには理解できない。機関車は確かに住民たちの前を走っているのに、彼らは実在のものとは見ていない。

全体的には、やはりつくり過ぎの感はある。濃い内容の短い話が組み合わされていているので、どうしてもつぎはぎ感が出てしまう。それからセリフの不自然さ。子供たちの言葉が、含蓄があり過ぎて浮いてしまっている。セットのリアルさが際だっているだけに、余計にアラが見えてしまう。

貧しい人々の生活を通して人間の業を描いた作品。初期の黒澤明監督作品に比べると娯楽性は薄い。