
外国語学習の困難さを見越して、子供をバイリンガルにするためにアメリカンスクールに通わせるといったニュースをたまに聞く。しかし、バイリンガルになるというのはそれほど簡単なことではないことがわかるのがこの本だ。むしろ、バイリンガル教育の怖さといったところまで事例を挙げて示している。
成長期に外国での生活や学習が増えると、当然ながら母語と過ごす時間が減ってしまう。母語であっても言語であることに変わりないので、それだけ母語の運用能力の発達も遅れてしまう。見た目では流ちょうなバイリンガルに見えても、言葉の深い部分の能力は、必ずしもモノリンガルのように言語能力が形成されているとは限らない。日本語は何もしなくても自然に身についたという考えは間違いだったことがわかる。日本人は日本語習得のための環境が整った中で育ったということだ。
アメリカンスクールの例であるならいいが、やむを得ずバイリンガルの環境に放り込まれた子供たちは、言語習得という点ではかなり難しい環境にいることを認識しなけらばならない。バイリンガル教育は、いわゆるあぶはち取らずのようなことにもなりかねない。
メディアに出る知的レベルの高いバイリンガルがなら、二カ国語の習得の負荷に耐えられるので、「漢字が苦手です。」くらいのところで済んでしまうかもしれない。しかし、世の中には、言語能力が十分に発達しないまま大人になってしまう人たちもいるのではないか。こういった事例はほとんど出ることがないだろうが。
大人になって外国語学習に苦労する方がいいのかもしれない。そう思わせるくらいにバイリンガル教育には難しさがあるということがわかる本だ。



