映画「江分利満氏の優雅な生活」(1963)の感想。山口瞳原作。

山口瞳原作、主人公の江分利満氏を小林桂樹が演じる。

タイトルからサラリーマンのお気楽生活を喜劇風に描いているのかと思ったが、それは前半だけだった。主人公は、サントリー宣伝部というおしゃれな部署に勤めるサラリーマン。日々の宮仕え生活をそれなりに順調にこなしているように見える。たまたま書いた小説で直木賞を受賞してしまうくらいの文才の持ち主だ。

中盤は、肩に掛かる責任の重さが語られる。お気楽そうに見えても、家族の生活を支える一家の柱としての苦悩はある。妻や子の病気、父親の世話など経済的にも精神的にも重荷に耐える日々だ。

そして終盤は、突如として心の叫びのクライマックスになる。江分利満氏は昭和初めに生まれ、社会に出る頃には終戦を迎えた戦中派だ。多感な十代のときに思い描いた将来は、終戦でチャラになってしまった世代。確かに戦時中のことを思えば、優雅な生活を送っていると言える。それでも鬱々とした気持ちを消化できない。

東野英治郎が演じた父親は、息子とは対照的な一生を送ってきた。やりたいことをやって、浮き沈みの激しい人生を送った。今は落ちぶれて息子の世話になっているが、充実感ありすぎの日々だったはずだ。

戦中派世代の持つ悲哀をユーモラスに描いた作品。反戦映画という面ももちろんあるが、それ以上に考えさせられる作品だと思う。