映画「イノセント」(1976)の感想。ルキノ・ヴィスコンティ監督。

1976年公開のイタリア・フランス合作映画。ルキノ・ヴィスコンティ監督。

恋愛感情が冷えつつある貴族の夫婦の物語。夫は無神論者で自由を常に求める。浮気相手へのおのろけ話を妻にするくらいに筋金入りだ。それでも体面を保つくらいの優しさを妻に示す。自由を謳歌しつつ、一人の人間として社会的責任も果たしているとも言える。一見すると、彼の生き方は功利的ではあるが、それなりに悪くないとも考えられる。

ある日、妻に不義の子ができたことがわかる。そんなときですら、彼は感情にうったえることはなく、冷静に打算的な解決策を示す。もちろん神を信じる妻は拒絶する。妻の心は完全に浮気相手と子供に向いてしまう。

そうなると冷静な夫の心に、嫉妬や憎しみが生まれてくる。彼はそれをどうすることもできない。ついには子供に手をかけるという愚行をおかす。何のよりどころもない夫の心の弱さが露呈してしまう。

それに比べ、同じように苦境にある妻であるが、子供を守る、浮気相手を愛すといった強い気持ちを持ち続ける。苦しいときでも、すがるものがある人間の強さがあわられている。

最後に夫は自ら命を絶つ。信じるものがないということは、何と悲劇なのだろうと思わせるエンディングだ。